サッカー欧州 | サッカービジネス レポートファイルのブログ記事

前回の前編では、欧州クラブとは対照的にJリーグではアカウントを取得するクラブが少ない写真共有ソーシャルネットワーキングサービス(以下・SNS)『インスタグラム』をJ1・横浜Fマリノスが行った日本のプロスポーツ界初となるイベントによって既存サポーターおよび新たな顧客に向けたPRを皮切りに視覚で伝えるインスタグラムがJクラブの新たなツールになる可能性について紹介しました。

そして後編となる今回のレポートでは主に情報収集や繋がりなどを目的としてSNSは活用されているイメージがありますが、それに付随する要素として「求人」に特化したSNSを利用する動きも出てきました。そんな「求人」に特化したSNSを欧州のサッカークラブが利用した事例を交えながら日本でも主流になる可能性について触れていきます。

 

■ビジネスに特化したSNS

2003年5月にサービスを開始し、全世界で3億人を超えるユーザー登録者数を有するアメリカ・シリコンバレーに本社を置く世界最大級のビジネス特化型SNSが『LinkedIn(以下・リンクトイン)』です。

 

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リンクトインは利用者がビジネス専用のプロフィールを作成し、サービスの中でビジネスのつながりを広げながらビジネスパートナーや人材を探したり営業先の顧客や商談先、専門家などとコンタクトを取ることができるSNSとして会員登録者と登録企業を増やしてきました。また、2011年10月には日本法人が設立され日本語対応も実現しています。

 

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日本では現在、登録者数は100万人ほどとSNSとして認知度は低いもの『楽天』をはじめとしたグローバル展開をする企業などはすでに求人情報をリンクトインに公開しており欧州のサッカークラブもリンクトインを有効に活用しています。

 

■クラブが求める人材をいち早く探すサービス

最近ではイタリア・セリエAのユヴェントスがグローバルビジネス分野のマーケティングを専門とするマネージャーを公式サイトで募集しました。

 

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募集内容としては6項目ほどの業務内容をはじめ、5つほどの採用条件、求める人物像などが掲載されています。そしてユヴェントスは同じ内容の求人募集をリンクトインにも公開したのです。

 

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ユヴェントスが求む専門的な知識や経験が求められる人材をいち早く探し出すには公式サイトのみだと時間を要することが予想されるなか、同時にビジネスに特化したリンクトインに求人公開することによっていち早く見つける可能性を高める意味でもサッカークラブがリンクトインを活用するのは必然といえるでしょう。

 

■有効に活用するのはクラブ次第

このリンクトインを利用した欧州のサッカークラブが注目を集める象徴的な出来事がありました。それは2016年1月の移籍市場のさなかにスロベニア1部リーグのサッカークラブ『NKドムジャレ』がリンクトインに「右SBが出来る人はいませんか?」とする求人募集を公開したのです。

これを報じたイギリスのテレビ局『BBC』によるとドムジャレは、これまで右SBで主将も務めていた選手がトルコリーグに移籍したことで穴埋めとなる選手を探すことになるもの予算の関係上、有望な選手を探すことが難しい状況でした。そこでリンクトインに「EUパスポートを持った右SB」「我々は攻撃的な3-4-3のシステムを使っています」などの条件を記載して求人公開したのです。

そして、この求人に応募したのがスペイン人DFのアルバロ・ブランチで、ブランチはベティスやエスパニョールのセカンドチームでプレーした後にキプロスやハンガリーのクラブでプレーした経験を持つ選手でした。

 

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最終的には1週間の練習参加を経てドムジャレはブランチと契約を結び、クラブの公式サイトには欧州各国メディアが前代未聞となるリンクトインを利用した選手獲得について報道した様子を公開しました。これについてはクラブ関係者も「私たちがこのような選手補強の先駆けになると信じている」と述べたとしています。

 

まだ日本では浸透されていないリンクトインですが、すでに海外では公的なサービスとして広く用いられています。冒頭で述べたように現在の登録数が100万人ほどがいることを見れば、これから利用する企業をはじめ派遣会社などによる転職市場ではリンクトインの重要性が高まる可能性があります。

それによってJクラブもこの先、選手獲得までとはいかなくてもクラブスタッフの求人募集を公開するに至って不可欠なSNSとして活用することも考えられますし、さらに様々なカテゴリーのサッカークラブをはじめサッカースクールなどもリンクトインを利用する価値は十分にあるはずです。

 

 

先ごろ、日産自動車がアフリカ大陸最大のサッカートーナメント『アフリカネイションズカップ2015』とのパートナーシップ活動を開始することを発表し、予選トーナメントから2015年1月にモロッコで開催される決勝トーナメントまでの期間を通して、日産のアフリカ市場におけるプレゼンス拡大を目的とした活動の一環と見られます。

 

■シティとの提携で加速するサッカーマーケティング

以前に公開した日産とUEFAチャンピオンズリーグとのスポンサーシップのレポートから日産のサッカーに重点を置いたマーケティングが急速に進行していき、2014年7月にはプレミアリーグのマンチェスター・シティなどを傘下にする『シティ・フットボール・グループ(以下・CFG)』と5年間のグローバルパートナーシップ契約を締結しました。

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このグローバルパートナーシップによってCFGは、日産自動車が保有する横浜F・マリノスの少数株主となり、マンチェスター・シティをはじめとするCFG傘下であるMLSの『ニューヨークシティFC』、Aリーグの『メルボルンシティFC』とともにユース年代の育成・マーケティングのノウハウ・人材交流など様々な分野において提携を行います。

横浜の日産本社で開かれた会見で、日産のカルロス・ゴーン最高経営責任者(以下・CEO)は「日産のブランドをグローバルに拡大するための重要なプラットフォームであるサッカーの試合への投資を促進する」と述べ、横浜F・マリノスの嘉悦朗社長は「今回のCFGとの提携は、Jリーグで初の資本提携をともなう海外企業との提携となります。初めてのケースなだけに何としても成功させてJクラブの一つのあり方を世の中に提案できればと思っています。」とコメントしました。

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これで日産は、マンチェスター・シティのホームスタジアム『イテハド・スタジアム』での広告展開や移動用の公式車両の提供などのほかに、CFG傘下のニューヨークシティFC・メルボルンシティFCおよび『マンチェスター・シティ・レディース』のユニホームロゴと、サポーターとの交流イベントへの参加なども行うことが予定されています。

 

■CFG・CEOから得られるノウハウ

さらにCFGとの提携で日産が得られるのはマンチェスター・シティのブランドだけでは無く、2003年から2008年までFCバルセロナの副会長を務め、当時“赤字”だったバルセロナの財政を再建するまでを描いた『ゴールは偶然の産物ではない』の著者であるCFG・CEOのフェラン・ソリアーノの存在です。

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ソリアーノCEOは2015年からMLSに参戦するニューヨークシティFC設立のため、MLBの名門『ニューヨーク・ヤンキース』との提携を実現し、FCバルセロナ副会長時代の実績や経験を買われてCFGのCEOに就任した人物です。

それによって日産はサッカーマーケティングを実行していくうえで、ソリアーノCEOからのアドバイスやサポートを得られることになります。

 

前述の『アフリカネイションズカップ2015』とのパートナーシップを皮切りに「日産のサッカーマーケティング」への転換が「日産の世界戦略」へと変革していくのかもしれません。

 

 

イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドが14日、2002年からユニフォーム・サプライヤー契約を結んでいた『ナイキ』から2015-16シーズンより『アディダス』と7億5,000万ポンド(約1,300億円)のユニフォーム・サプライヤー契約を結んだことを発表しました。

 

■過去最大となる契約

イギリスの大手通信社『ロイター通信』によればマンチェスター・ユナイテッドとアディダスの契約内容は、2015~16年シーズンから10年間の年間7,5000万ポンド(約130億円)とサッカークラブ史上世界最高額となる大型契約となり、マンチェスター・ユナイテッドにとっても『ゼネラル・モーターズ』(GM)と2012年に交わした年8,000万ドル(約80億円)の契約を上回る過去最大の契約となります。

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マンチェスター・ユナイテッドとアディダスが契約にいたるまでの経緯もロイター通信によれば、ナイキはマンチェスター・ユナイテッドとの契約が2014-15シーズンで期限が切れることで数カ月間にわたり契約更新について交渉をしてきました。

交渉では、マンチェスター・ユナイテッドは10年間にわたり年6,000万ポンド(約104億円)以上のスポンサー料を支払う提案をしましたが、これに対してナイキは他社を上回る案を提示する権利があったにも係わらず、提案された年6,000万ポンドやアディダスほどの金額を支払えないことで、マンチェスター・ユナイテッド側に提案を見送ると通知し交渉から下ります。

 

■目指すはサッカー用品のトップ奪回

結果的にライバルのナイキからユニフォーム・サプライヤー契約を勝ち取るためにマンチェスター・ユナイテッドの提案を最大限に受け入れたことで契約を結ぶことに成功したアディダスという構図となりました。

 

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またアディダスは、同じ2015-16シーズンにナイキからユニフォーム・サプライヤー契約を勝ち取ったマンチェスター・ユナイテッドと同様、セリエA3連覇を果たしたユヴェントスとも2013年10月に契約期間6年間の契約金総額1億3,950万ユーロ(約190億円)のユニフォーム・サプライヤー契約を結んでいます。

意図的なのか?は定かではありませんが、サッカー用品の売上げでナイキにリードを許してきたアディダスが、そのナイキのユニフォームを着用してきた名門クラブのユニフォーム契約をつかみ取ったことは、サッカー用品のブランディングを推し進めて再び業界トップ奪回を目論むアディダスの意思表示なのかもしれません。

 

 

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