サッカーマーケティング | サッカービジネス レポートファイルのブログ記事

前回のサッカークラブ編では、近年において「不可欠な存在」になりつつあるサッカーで使用されるIT技術の現状と「将来的に想定される可能性」について試合進行に留まらず、選手のプレーやコンディション管理を行うIT機器がプロサッカークラブだけではなくアマチュアクラブをはじめ育成年代のクラブ・スクールまでに浸透していることで、これから先サッカーで使用されるIT機器開発がさらなる進化を遂げながら「サッカー市場」に導入され振興していく「サッカーIT産業による波及効果」について取り上げました。

そして今回は、このサッカーIT産業による波及効果がサッカークラブやスクールだけではなく「サッカー観戦者」への観戦環境でも変化をもたらしており、そうしたサッカー観戦者をターゲットにするサッカーIT産業の現状や展望について紹介していきます。

 

 

■サッカー観戦に不可欠になりつつあるデータ配信

今シーズンからJリーグ放映権を得たイギリスに本社を置くPerform Groupが提供するスポーツ中継のインターネット配信サービス『DAZN(以下ダ・ゾーン)』をはじめ2016年からソフトバンクとヤフーの共同運営『スポナビライブ』がリーガエスパニョーラやプレミアリーグのサッカー中継配信を開始するなど、これまで既存の観戦方法とされたきたサッカーのテレビ観戦が「ネット観戦」に移行しつつあると言えます。そんなネット配信サービスがサッカー観戦者の要望に応えるためにインターネットの利便性を活かしたさらなる技術開発を行っているのです。

 

ビジネスとテクノロジーで未来を切り開く 『スポーツイノベイターズ オンライン』にサッカーの中継放送にピッチ全体の様子を常に表示することを可能にした配信技術の開発について取り上げています。

 

 

それはNHK放送技術研究所がサッカーなどのスポーツの中継放送にインターネット経由の情報を放送に同期して表示するシステムを開発しているもので選手のピッチ内での位置や走行距離などのトラッキングデータを中継放送の画面上に表示できるものであり、またトラッキングデータの配信については一般のクラウドサービスを利用しているとのこと。

また配信するトラッキングデータはスマートフォンやタブレット端末にも送信が可能であることで、現地での観戦の際にも選手のデータを確認しながら観戦することが可能になるとしています。

 

 

■これまでに無い「新たなサッカー観戦スタイル」

このように進化し続けるIT技術と機器によって多様なサッカー観戦が可能となりましたが、さらにサッカー観戦者からの“ニーズに応える”ためでもありサッカースタジアムの「ひとつの活用法」としても将来の導入に向けて注目されるIT技術があります。

 

アメリカ・メジャーリーグサッカー(MLS)の昨シーズン覇者である『シアトル・サウンダーズ』が試合開催日にスタジアムへ行くことが出来ないファンやサポーターのために専用ゴーグルを使用するヴァーチャルリアリティ(VR)を利用することで実際にスタジアムで観戦しているような体感を可能にするサービスを試験的に行ったとしています。

 

また、この専用ゴーグルを使用したVRよりもさらに「リアリティを追及」したVRが将来的に導入される可能性があります。そのVRとは下記イメージ図のように本来はアウェイゲームでありながらホームゲームとして使用しないはずのスタジアムのピッチ上に同時刻で行われる試合でプレーしている選手をVR技術によって実在化させてスタジアムにいながら試合を体感するシステムです。

 

 

このスタジアムを利用したVRが導入されることになればアウェイゲームに行くことが出来ないファンやサポーターにとって慣れ親しんだホームスタジアムでの観戦が可能になり、さらにクラブ側からすると本来は使用することのないスタジアムをVRによってファンやサポーターを呼び込むことでクラブの「新たなる収入源」になる可能性を秘めることになるのです。

場合によってはイメージ図のような専用ゴーグルを使用しないで限りなく「リアルな観戦」に近づけるVR技術が導入されることになればスタジアムの観戦者にとって違和感やストレスを感じることのない観戦が可能になるでしょう。

 

■注目高まるサッカーIT産業

以上でサッカー観戦からの視点によるサッカーIT産業のシェア拡大の可能性を紹介してきましたが、これから先の展望として今回紹介したIT技術以外の機器やサービス、さらには私たちが想像すらしていないIT技術が誕生するのかもしれません。そうした意味でもサッカーIT産業はこれから注目が高まる分野になるはずです。

 

※参考記事・『スポーツイノベイターズ オンライン』

 

 

2016年12月に行われた『FIFAクラブワールドカップジャパン2106』準決勝・鹿島アントラーズvsアトレティコ・ナシオナル戦で開催国の鹿島アントラーズが南米王者のアトレティコ・ナシオナルを3-0のスコアで勝利する快挙を成し遂げました。

その快挙に繋がったとされるのが30分に突然プレーが止まり場内のビジョンに「ビデオ判定中」と表示がされるなか、問題とされるシーンをタッチライン横にあるモニターでリプレーを確認した主審がプレーが切れる前、鹿島のFKからDF西大伍がPA内でファウルを受けて倒されたとして鹿島にPKを与えた場面こそFIFA主催大会で初導入となった「ビデオ判定技術」が使用された歴史的な場面でした。

この「ビデオ判定技術」の以前には、ゴールを判定する「ゴールライン・テクノロジー」の導入など近年のサッカーでIT技術は「不可欠な存在」になっており、それは「試合」だけに留まらずに「選手」へも及ぼしています。こうしたサッカーで使用されるIT技術の現状と将来的に「想定される可能性」について取り上げていきます。

 

■多くのサッカークラブが採用する「選手管理IT機器」

クラブやコーチにとって選手の「プレーの質」に関するコンディションをより正確に把握することは重要であり、それを可能とするIT機器がオーストラリアを拠点とするカタパルト社が開発した『GPSトラッキングシステム』です。

 

 

このGPSトラッキングシステムはスポーツブラジャーのようなウェアを選手に装着させて背中の部分にある小さなポケットにデバイスを入れ、ロシア製の衛星から発信されるGPSで位置情報を把握し、デバイスに搭載される『加速度計』・『ジャイロスコープ』・『磁力計(コンパス)』が内蔵される3つのセンサーによって様々なデータが内部メモリーに記録することが可能となり、それによりトラッキングカメラなどでは不可能なデータを得られるIT機器です。

2015年7月に等々力陸上競技場で行われた川崎フロンターレvsボルシア・ドルトムンドの親善試合で香川をはじめとするドルトムンドの選手らがスポーツブラジャーを身につけていたことをキッカケにカタパルト社のGPSトラッキングシステムが日本でも注目されるようになりました。またドルトムンドの他にもACミランやレアル・マドリー、チェルシーなどの欧州名門クラブもGPSトラッキングシステムを採用しているのです。

 

そして、このGPSトラッキングシステムを最も活用したことによって大きな成果を上げたクラブが2015-16シーズンのプレミアリーグで初優勝を成し遂げたレスター・シティだとされています。レスターは2015-16シーズンのプレミアリーグで最も負傷者が少なかったチームでもあり、それはシーズンを通じ主力の長期離脱などによる戦力ダウンが無かったことによってリーグ初優勝という結果をもたらしました。

レスターの負傷者が少なかった理由がGPSトラッキングシステムによるもので集めたデータからの数値を元に選手個々の疲労度を測ることによって負傷の要因を探ったり予防したりすることを可能にしたのです。それによって事前に「怪我の回避」と「負傷の予防」という情報を把握することが出来る観点としてもGPSトラッキングシステムは有効になるのです。

 

このGPSトラッキングシステムを採用するのは欧州クラブだけに留まらず、2017年2月現在でJリーグクラブでは柏レイソル、コンサドーレ札幌、横浜FCなどが2016シーズンから導入を開始し、2017シーズンからは湘南ベルマーレ、京都サンガFC、清水エスパルスもカタパルト社との提携を正式決定したことでもデータ収集を用いた選手のコンディション管理はJリーグクラブでも定着してきたと言えるでしょう。

 

■低コストIT機器によるシェア拡大

そしてサッカーで使用されるIT技術はプロサッカークラブよりも数多く存在するアマチュアそして育成年代のサッカークラブにも浸透し始めています。

その代表格とされ、さらなる普及が期待されるのがサッカー解析サービス機器『イーグルアイ』です。イーグルアイは屋外でのチーム練習、紅白戦、練習試合などでプレーする選手の二の腕に装着して装着中の選手の動きをデータとして記録し、その記録されたデータ情報がスマートフォンやタブレットにダウンロードした『イーグルアイ専用アプリ』に自動アップロードされ、使用後すぐにデータが確認出来る仕組みになっています。

 

 

イーグルアイの魅力は細かいデータを収集していくことに加えて通常版が17,500円という低価格という点です。これはGPSトラッキングシステムのような高額機器と比較した場合、はるかに低コストであり予算の少ないアマチュア・育成年代のサッカークラブにとっては魅力的なIT機器といえます。

 

また特定のサッカーコーチからの指導を希望する場合、そのコーチの都合が付かないなどの理由で実現出来ない問題を解決に導くIT機器も登場しており、それがスポーツ現場向けにコンディショニング維持やトレーニング成果を把握するためのデータベース開発を提供する『クライム・ファクトリー社』が開発した『CLIMB DB』です。

 

http://www.climbfactory.com/climbdb/

 

CLIMB DB最大の特徴は、選手のフィジカル・メディカル・コンディションに関するあらゆる情報をインターネット上で集約して一括管理することを可能にしたクラウドサービスで、CLIMB DBによってデータやノウハウを蓄積して遠方からでもチーム内のコミュニケーションを円滑にし、データを元にした日々の指導やトレーニングメニューの作成に活用出来ることに加え、初期費用30,000円で予算規模に併せた低額プランもあることでコストを抑えることが可能となり、こちらもイーグルアイと同様の魅力を持つIT機器と言えるでしょう。

 

■サッカーIT技術の更なる浸透

以上のようにトップクラブをはじめアマチュアクラブ・育成年代のクラブ・スクールが選手の能力値やコンディションをIT機器で管理して日々のトレーニングに活かすことは、冒頭の試合運営時と同様に選手のコンディション管理でもIT技術は「不可欠な存在」になっているといえます。

特にイーグルアイは、製品・サービスの開発またはアイデアの実現など「ある目的」のためにインターネットを通じて不特定多数の人から資金の出資や協力を募る『クラウドファンディング』によって開発を軌道に乗せたことでも、ある意味ではサッカーによるIT機器事業に参入する機会は「誰にでも」あるといえるでしょう。

これから先もサッカーに使用されていくIT機器の開発および市場導入はさらに振興していくことが予想され、こうした一連の動きを仮に「サッカーIT産業」と呼ばせていただくが、これから先もサッカーIT産業はさらなる進化を遂げながら「サッカー市場」に浸透していくと予想されます。

 

そして、このサッカーIT産業による波及効果はサッカークラブやスクールだけではなく、「サッカー観戦者」の観戦環境にも変化をもたらしています。次回はサッカー観戦者をターゲットするサッカーIT産業の現状や展望について触れていきます。

 

※参考記事・『Number Web』、『アズリーナ』、『COACH UNITED』

 

 

このほどアメリカのメディア『ブルムバーグ』が世界最大級の利用者数であるネット通販サービスを展開する『Amazon』がスポーツ配信に興味を抱いていると報じました。

報道によるとサッカーをはじめテニス、ゴルフ、オートレースといったスポーツを対象にし、将来的にはバスケットボールや野球といったアメリカを代表するスポーツの配信も視野にしているとしており、Amazonは近年の映像コンテンツにも参入に乗じて幅広いスポーツを扱うライブ放映権の獲得にも乗り出しているとしています。

日本でも今夏からソフトバンクとヤフーが共同で運営する『スポナビライブ』が配信を開始しリーガエスパニョーラなどのサッカー中継を行うようになり、そしてJリーグと10年間で2100億円の放映権契約を締結したイギリスに本社を置くPerform Groupが提供する『DAZN(以下ダ・ゾーン)』がJリーグや海外サッカー(セリエA・ブンデスリーガ)のライブストリーミングサービスを開始しています。

今回のレポートでは本格的にJリーグ中継に参入するダ・ゾーンの日本参入の狙いとネット配信によって多様化してきたサッカー中継によって観戦する側に与える影響などについて取り上げていきます。

 

■契約締結に合わせた設備投資

Jリーグとの放映権契約が発表された2016年7月にダ・ゾーンは制作ブース2部屋とオーディオブース10部屋の12スタジオブースを備えた新オフィスを東京都・大門に開設しました。

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オフィスは、ミーティングスペースに原寸大のサッカーゴールや休憩スペースにフーズボールとスポーツ配信を手掛けるレイアウトとなっており、制作ブースではグローバルしたコンテンツを日本のスポーツファン向けに編集する映像制作を行い、オーディオブースでは制作された映像にスポーツの初心者から精通するファンまでに対応することで海外スポーツに日本語解説をつけるなど24時間体制で運営されます。

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現時点でダ・ゾーンは、すでにJリーグ配信を開始していますが事実上は来シーズンからのJリーグ中継に向けた設備投資といえるでしょう。

 

■サッカー中継にネット視聴を浸透させる

今回の日本進出についてダ・ゾーンのマーケティングディレクターを務めるピーター・リー氏がサッカー専門誌『フットボリスタ』のインタビューで以下のように述べました。

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http://www.footballista.jp/special/32065/2

 

「まずはタイミングですね。現状の日本では複数のスポーツを見ようとしてパッケージを組み合わせていくと8000円以上かかります。ファンがお手頃な価格で見られるサービスがなかったため、今このタイミングで日本でサービスを開始すべきと考えました。さらに、今の日本はテレビが主なので、限られたデバイスでしか見られないものをマルチデバイスで提供することによって、日本の視聴習慣に合わせたものにできる。日本の場合、通勤時間が長いので通勤中に見たり、寝る前にベッドの上でタブレットで見たりなどのニーズがありますよね。ぜひそれを我われが提供したい。『黒船』というのはポジティブとネガティブの両方の意味があるかと思いますが、あくまで便利かつリーズナブルなものを日本国内で展開したいというのが理由です」

 

他にもリー氏は地上波テレビ局へのJリーグ中継の提供に関しては現状では何も決まってはいないがビジネスとしては可能性はあるとしながらも、あくまで日本のサッカー中継に「ネット視聴という習慣」を根付かせたいことが目的だということが伺えます。

 

■ネット視聴がサッカー中継の選択肢を狭める?

昨今のネット環境のインフラ整備化と併せてスマートフォンやタブレットの普及によりサッカーをはじめとするスポーツ視聴方法の多様化が急速に広がったといえるでしょう。

しかしながらスポーツ視聴方法の多様化が広がったとはいえダ・ゾーンのようにネット視聴をメインにしてサッカー中継が展開された場合、従来のテレビ視聴を「どうするのか?」という問題がとりざされる可能性があります。サッカー中継を「これまでのようにテレビ画面で観戦したい」という視聴者にとっては懸念されるところです。

 

ダ・ゾーンもビジネス展開によっては地上波テレビ局への提供もありえるとしていますが、サッカー中継の視聴者に対して選択肢を広げるのではなく選択肢を狭めることに繋がる可能性があることでもJリーグは「今後の課題」にならないようにすることが求められます。

 

 

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